2008年09月21日

夢に向かって

夢に向かって






むかし、むかし、あるところに大きな山がありました。

その山はとっても高く、頂は天にまでとどくほどでした。

その天にとどきそうな大きな山の頂に、一本の大きな樹が立っていました。

この話はこの大きな樹に住む一匹のリスの物語です。


ある晩、リスは夢を見ました。

その夢は、白い砂浜で目の前に広がる大きな海を見ている夢でした。

朝起きてリスは、鮮明に覚えている夢のことを大きな樹に話しました。

「じいちゃん、おはよう! ちょっと聞いてくれよ。 僕は夢を見たんだ。 その夢は一面白い砂の場所に僕が立っているんだ。 それで目の前に広がる水を見ている夢なんだ! あそこはどこだろう?」

リスは大きな樹に聞きました。

すると大きな樹は答えました。

「やあ、リス君おはよう。 今お前が話してくれたのは多分海だよ。 白い砂浜に立って大きな海を見ている夢を見たんだな。」

そういって大きな樹は朝の光を吸い込みました。

「海? 何それ? それはどこにあるの?」

リスは大きな伸びをしながら聞きました。

「海の場所か? 海はこの山を下りてはるかはるか遠くの、ちょっとやそっとではたどり着けないくらい遠い場所にあるらしいぞ。」

「あるらしい? じいちゃんは行ったことないの?」

「わしか? わしは行ったことがないなぁ~。 わしも聞いたことがあるだけだからなぁ~。」

それを聞いてリスはガッカリしました。

でも同時に、胸にこみ上げてくる思いがありました。

「じいちゃん! 僕は決めたよ! 僕は海を見に行くぞ!!」

そういってリスは大きな樹から飛び降り、はるか遠くに広がる地上の世界を見渡しました。

「おいおい、リス君や。 お前は海を見に行くといったが行き方を知ってるのかい?」

後ろで大きな樹が言いました。

「えっ! 山を下りればいいんじゃないの?」

リスは振り返って大きな樹に言いました。

「まぁ確かに山を下りればいいんだろうけど・・・・、おぉそうだ! あの人に聞いてみよう。」

そういって大きな樹は、枝をバタつかせました。 そして大きな声で叫びました。

「風の神様、風の神様、どうか教えてください。 ここいるリスが海を見たいといっています。 でも行きかたが分からないのです。どうか海への行き方を教えてください。」

そういい終わると、大きな樹は枝をゆっくりおろしじっと待ちました。

リスも目を閉じてじっと待ちました。

しばらくすると大きな樹の枝がゆっくりと揺れ始めました。

「あっ! 風の神様だ!!」

リスはそういうと大きな樹に登りました。 そして樹の枝に腰掛けると静かに声が聞こえてきました。

「大きな樹よ、小さなリスよ、私を呼んだのはお前たちかな?」

「おぉ、風の神様。 そうです、私たちが呼びました。 どうか教えてください。 このリスが海へ行くにはどうしたらいいのですか?」

「その答えはとっても簡単だ。 ここから少し歩いた所に川がある。 その川に木で作ったイカダを浮かべて、川の流れに身を任せればいつかは海にたどり着くだろう。」

「川にイカダを浮かべて流れに身を任せればいいんだね! 簡単じゃん! ありがとう! 風の神様!!」

そういうとリスは早速、川に向かって走りだしました。

リスの姿が見えなくなると、大きな樹は風の神様に言いました。

「風の神様。 あのリスは海にたどり着けますかね?」

「そうだな・・・・。 今までいろんな者達が海を見たいといって飛び出していったが、誰も帰って来た者はいないからな・・・・。 今回は無事にたどり着くといいが・・・・。」

そんな話をしているとも知らずにリスは一目散に川を目指して走っていました。

「まずはイカダを作らなきゃだな。 どっかにいい木はないかな?」

キョロキョロしながら走っていると、目の前にキツネが現れました。

「やあ、リス君。 そんな急いでどこに行くんだい? それに何かキョロキョロしてるみたいだけど。」

キツネはそういってリスのまねをしてキョロキョロして見せました。

「あっ、キツネさん。 ちょうどよかった。 ちょっと聞きたいんだけど、この辺にイカダを作れそうな木はないかな? 知ってたら教えておくれよ。」

リスは立ち止まり、ハァハァと息を切らせて言いました。

「リス君はイカダを作りたいのかい? それは何のために作るんだい?」

キツネは首をかしげてリスに聞きました。

「海を見に行くんだ! でもそのためには、イカダに乗って川を下らなければならないんだ!」

それを聞いてキツネは言いました。

「だったら僕のイカダを使うといいよ。 君にはちょっと大きいかもしれないけど丈夫でしっかりできているから川を下るにはぴったりだよ!」

「ほんとう!キツネさん!! ありがとう!」

キツネの申し出にリスは大喜びしました。

「じゃあ早速、見に行こうか。 この先にある川岸につないであるんだ。」

キツネはそういって歩き出しました。

リスもキツネの後を追って歩き出しました。

「キツネさん、一つ聞いていいかな?」

「なんだい?リス君?」

「キツネさんは何で僕にイカダを譲ってくれるの? キツネさんにとって大切なものじゃないの?」

リスがそういうと、キツネはリスの目を見ていました。

「僕もね、リス君見たいに川を下って海を見み行こうと思ったときがあってイカダ作ったんだけどさぁ~、なんかいろいろ考えたらどうでもよくなっちゃったんだ。 だからリス君がイカダを必要としてるならあげようと思ってさ。」

「いろいろ考えたって、キツネさんは何を考えたの?」

「ん~、いろいろだよ。 まぁ、川岸に着けば分かるよきっと。」

リスはいまいち納得できませんでしたが、イカダが手に入るのは喜ばしいことなので質問はそれくらいにして、川岸へと歩いていきました。

しばらく歩いていくと、キツネが言いました。

「ほら! あそこだよ!」

キツネの指差す先には川が見え、岸には沢山のイカダ縛りつけられていました。

「うわぁ~~! すごい数のイカダだ!!」

そう叫びながら、リスは川岸のイカダに近づきました。

「すごいなぁ~! いろんなイカダがあるぞ! ねぇねぇキツネさん。キツネさんのイカダはどれなの?」

リスがキツネに尋ねると、キツネは言いました。

「ほら、そこにあるのがそうだよ。」

そういってイカダの方に歩いていきました。

リスはキツネの後についていきました。

そこにあったイカダは真っ白い丸太で組んだとっても丈夫そうで、旋回性も良さそうで、何より乗り心地がとっても良さそうにできていました。

「うわぁ~、かっこいい~! ほんとうにこれを僕にくれるのかい?」

そういってリスはキツネの方を見るとキツネは少しうつむきながら言いました。

「もちろん! 君にあげるよ。 使ってくれるご主人様ができてイカダもきっと喜んでるはずだから・・・・」

そういってキツネはイカダをじっと見つめました。

その姿を見てリスはイカダを譲ってもらうことを素直に喜べなくなりました。

だって、イカダを見つめるキツネの目のうっすら涙が浮かんでいたからです。

(何でキツネさんは涙を浮かべてるんだろう? さっきも僕の質問にもうやむやに答えてたしな。 これはきっと何か訳があるぞ・・・・。)

「キツネさん、ありがとう。 大事にこのイカダを使わせてもらうね。 でも出発は明日の朝にするから、今日はキツネさんといっぱい話がしたいな。」

リスがそういうとキツネは ‘ハッ!’ と、我に返りました。

「そうだね。 出発は明日の朝がいい。 よしっ!今日はいっぱい話をしよう!」  

そういってリスとキツネは、川岸の近くの切り株の上に座って話し始めました。

「そういえば何でリス君は海が見たいの?」

キツネがそういうとリスは目をキラキラさせて言いました。

「夢に見たんだ! 白い砂、青い空、大きな海。 きれいだったなぁ~! 今でも目を閉じると目の前にあるんだよ!!」

そういってリスは目を閉じてニヤニヤしました。

「そうか。 夢に見たんだ。 とってもきれいな海だったんだね・・・・。」

そう答えてキツネも目を閉じました。

「僕もね、リス君みたいに海に行こうって思った時があったんだ。 でももうあきらめたけどね・・・・。」

キツネは少し寂しそうに言いました。

「なんであきらめたの? キツネさんは海が見たくないの?」

リスはキツネを見つめて言いました。

「もういいんだ・・・・。 何もかももう遅いんだよ。 そう、僕には勇気がなかったんだよ。」

そういってキツネは涙を流しました。

その姿を見てリスは決めました。

「よし! キツネさん! 僕と一緒に海を見に行こう!」

そういってリスは両手を広げました。

「だから、キツネさんは自分のイカダを自分で使うんだ。 僕は自分で自分のイカダを作るから。」

それを聞いてキツネは言いました。

「さっきも言ったけどもういいんだよ。 もう遅いんだ・・・・。」

そいってうつむくキツネにリスはイライラして言いました。

「何かを決めて行動するのに遅いことなんてあるもんか!!  夢見たことがあったなら、その夢に向かって進もうよ! よし! 僕は自分のイカダを作るぞ!」

そういってリスは森の中に入っていきました。

その後姿を見ながらキツネはつぶやきました。

「そうだよな・・・・、夢に向かって進むのに遅いことなんてないんだよな。 僕もあの頃に夢見た、海を見に行こう!」

そういってキツネは涙を拭いて、森の中に入っていったリスを追いました。


それから数日のあいだ、リスとキツネは夢中になってイカダ作りをしました。

しっかりした丈夫な丸太で組み合わせ、かっこいいマストを立て、軽くてこぎやすいオールを作りました。

それと同時にキツネは自分のイカダをちょこっと手直しして、着々と準備をしました。

そして数日たったある日、ついにリスのイカダは完成しました。

キツネのイカダもとてもかっこよく生まれ変わってました。

「ついに完成したね!」

リスが言いました。

「うん! かっこよくできたね!」

キツネが答えました。

「よし! それじゃあ、川岸に持っていって出航の準備をしよう!」

リスとキツネはそれぞれのイカダにロープを掛け、ズルズルと引きずって川岸に向かいました。

川岸について、リスとキツネが川にイカダを浮かべようとしていると、遠くの方から声がしました。

「お~~い! お前たち~。 川にイカダを浮かべて何してるんだぁ~。」

よく見ると川の向こうには大きなクマがいて、こちらに向かって叫んでいました。

それを聞いてリスは答えました。

「僕たちは~、これからイカダに乗って~、海を目指すんだよ~!!。」

リスは精一杯の大きな声でクマに伝えました。

「アッハッハッハ!! そんなのじゃ無理、無理! やめとけ、やめとけ!!」

クマはお腹を抱えて笑いながら言いました。



「そんな小さなイカダで海になんて行けるもんか~! ほら見てみろ~! 俺のイカダを!」

そういってクマは、自慢げに自分のイカダを指差しました。

そこにはとっても大きくて、きれいな色で塗られ、かっこいい旗をなびかせたイカダが浮かんでました。

「どうだい! 俺のイカダは!! カッコイイだろ~! 海を目指すならこれくらいのイカダじゃないと無理だぞ~!!」

そう言いながらクマはまた大きな声で笑いました。

それを聞いてリスは、大きなため息をついてクマに言いました。

「クマさ~ん! ご忠告ありがとう~。 でも、ひとつ聞いてもいいかなぁ~!!」

リスとキツネは川にイカダを浮かべながら言いました。

「なんだぁ~! 言ってみろぉ~!!」

リスとキツネは、それぞれ自分のイカダの上に乗って川岸につないだロープを解きました。

そしてリスはクマに向かって言いました。

「あのねぇ~! クマさんのすばらしいイカダの事は~、よぉ~く分かったよ!!」

リスは手に持っていたロープを放して言いました。

「ところでさぁ~! クマさんは~、そのご自慢のイカダではいつ出航するの~?」

そういってリスはキツネの方を見てウインクしました。

それを見てキツネも ‘パチッ’ っとウインクすると、オールをこぎ始めました。

二隻のイカダはゆっくりと動き出し、はるか彼方にある海を目指して進み始めました。

そしてそのイカダには、希望の光に包まれたリスとキツネの姿がありました。






おしまい



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Posted by みっちゃん at 20:53│Comments(0)日記
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