2008年06月25日
わて、・・・・してまんねん

『編集手帳』
臨床心理学者の河合隼雄さんは美しい花を見ると、ときに心のなかで花に語りかけたという。
「あんた、花してはりますの? わて、河合してまんねん」
俳人も斉藤慎爾さんは「生と死の歳時記」(法研)に書いている。
「『わて』という存在が、一回しかない人生の中で河合隼雄という壮大な劇を演じる」と。人は誰もが透明の仮面をつけ、「・・・してまんねん」の人生を生きている。
「世界は劇場、男も女もみな役者」はシェークスピア劇の言葉だが、「いい人」と見られることに疲れたり、「元気者」の看板が重荷になったり、ひとたび楽屋に戻れば、役者は誰しもへとへとだろう。
「わて、・・・してまんねん」。自分の姓をあてはめて呪文を唱えると、すうっと肩の力が抜ける。疲れた現代人に数々の著書を通じて薬剤を調合してくれた河合さんの、これも「心の処方箋」に違いない。
高松塚古墳の国宝壁画を損傷した事故などで心労を重ねたのだろう。文化庁長官当時に脳梗塞で倒れ、療養していた河合さんが79歳で亡くなった。今の世では少ない「大人(たいじん)」の風格をもつ人だった。
ついつい上っ面の正義を振りかざし、きれいごとの建前を並べ立ててしまったときなど、ひとり、花につぶやくことがある。
あんた、花してはりますの?
わて、編集手帳子してまんねん。
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これを読んでるあなた。
あなたは誰をしてはりますの?