2008年09月27日

考え方






とある山奥に一人の男が住んでいました。

男はなぜ山奥に独りで住んでいるのかというと、男は何でも人のせいにする癖があってみんなに嫌われていたからです。

「あいつが悪いんだ! あいつのせいで俺はこんな目にあったんだ!! 」

と、いつも人もせいにしては自分は何にも悪くない、むしろ被害者だといって文句を言っていました。

そんな男の周りからはだんだんと人が去っていき、いつの間にか独りぼっちになっていました。

「何だあいつら! 散々俺の世話になっておいて最後にはこのありさまか!! よし!わかったぞ! こんなとこにいられるか! 独りで誰も来ない山奥に住んでやる!!」

といったわけで、男は山奥に独りで住んでいました。

山奥での生活は男にとって快適なものでした。

男は人との接し方は下手でしたが、自然や動植物たちとの接し方はとっても上手でした。

ですから山にある木の実や山菜を摘んできたり、自分で野菜を育てたりして暮らしていました。

あるとき男は川に魚釣りに行きました。

いつものお気に入りの場所にたどり着くと、

「よし、今日は朝からじゃんじゃん釣るぞ!」

そういって男は岩の上に座ってさっそく糸をたらして釣りを始めました。

今日はとってもポカポカ陽気。

川の中でユラユラ揺れている浮きを見ていた男はいつの間にか眠りこけてしまいました。

ポカポカ陽気に誘われて男は、深~い深~い夢の世界に入っていきました。

男は夢の中でひとりの老人に出会いました。

その老人は男のことをじっと見つめていました。

その目はとても優しく深~く澄んでいて引き込まれていきそうな感じでした。

「おい、じいさん!あんた誰だい? 何で俺の事を見てるんだ?」

男が話しかけても、老人は黙ったまま男を見ていました。

「黙ってないでなんとか言ったらどうなんだよ!!」

男は少しイライラしてきました。

それでも老人は黙って男を見ていました。

「おい!じいさん!! 用が無いなら俺の前から消えてくれ!!」

とうとう男は本気で怒って、老人を怒鳴りました。

すると老人は‘ニコッ’っと微笑むと、ゆっくりと話しはじめました。

「そこがお前の悪い癖じゃな。 お前はいつも自分の思うとおりに事が運ばないとそうやってイライラして他人に当たる。 そして自分を怒らせた相手を恨み、怒りをぶつける。どんなことでもみ~んなひとのせい。 どうじゃ? 図星じゃろ?」

そういうと老人は、‘フッフッフッ’と口に手を当てて笑いました。

それを聞いて男は、顔を真っ赤にして怒鳴りました。

「うるせぇ~、じいさん!! お前に何が分かる!!」

それを聞いて老人はいいました。

「わしはお前のことをお前以上に知っておるぞ。だってわしは・・・・」

そういいかけて老人は口をつむりました。

「だってわしは何だよ! 隠さずに教えろよ!」

男がそういうと、老人は手招きして男を呼びました。

「ほれ、ちょっとこれを覗いてみろ。 この中にお前が知りたいことがあるぞ。」

そういって、横にあるカメを指差しました。

男は言われたとおりにカメを覗き込みました。

カメにはなみなみと水が入ってました。

まるで鏡のようになっているカメの中の水になにやら現れました。

そこには一台の車が走っていました。

その車は曲がりたいらしく、ウインカーを出して停止しました。

そして対向車の切れるのを待っていると、後ろからバイクが ‘ドーン’ と突っ込んできました。

「おっ!事故だぞ! あ~ぁ、こりゃ車の運転手は怒って出てくるぞぉ~。」

男はそういって身を乗り出してカメの中を覗きました。

「ほらでてきた! よし!怒ってやれぇ~! って・・・・あれ? なんで??」

男は拍子抜けしました。

車から下りてきた男がバイクの男に近づき、傷の具合を見て安全な場所に移動して警察に連絡したからです。

そして待っている間に寒いだろうとコーヒーを買ってきて、修理の話もなるたけ負担にならないようにするからと気を使ってあげてたからです。

「なんだあいつ? 自分が被害者なのになんであんなにやさしくできるんだ?」

男は不思議に感じ、老人に尋ねました。

「何でだと思う? わからんじゃろな、お前には。」

そういって老人はカメを ‘コツン‘ っとたたきました。

「ほれ、もう一度覗いてみろ。」

老人はそういってカメを指差しました。

男はまた鏡のようになっているカメの中の水を覗き込みました。

そこにはまた一台の車が走ってました。

そしてウインカーを出して止まりました。

「さっきと同じじゃないか。ほらまたバイクが突っ込んできた。おっ、運転手が出来たぞ。あれ? 今度はさっきと違ってすごく怒ってるぞ。 バイクの男に怒鳴ってるぞ。 あらあら、そうしているうちに渋滞が出来ちゃったよぉ~。 おうおう今度は渋滞の車に向かって怒鳴ってるぞ。」

カメの中の現れた映像はさっきと正反対でした。

「どうじゃ?」

老人は男に尋ねました。

「どうってなにが?」

男は聞き返しました。

「カメの中に現れてきた二つの映像を見てどう感じた? まったく同じ出来事なのに、結果がこうも違う。 なぜだと思う?」

「ん~~~。」

男は考えました。

「わからんじゃろうな。 仕方がないな教えてやろうかの。」

そういって老人は男の頭に手を置きました。

「よいか、こう考えてみるといい。目の前に起こった出来事にはふた通りの考え方がある。まず一つは、二回目に見た映像のように起こった出来事に感情的になり、相手を攻撃する。これはまあ結果的に収拾がつかなくなってどんどんこじれていく。つぎにもう一つの考え方。自分の目の前で起きた出来事は自分にも責任があるという考え方じゃ。たとえ被害者であろうと自分にも責任があると考えられれば、相手の気持ちを酌んで行動できる。これは結果的に丸く収まる。どうじゃ?お前はどっちじゃ?」

男は下を向いて言いました。

「俺はいつも感情的になって相手を攻撃してたよ。 だから相手の気持ちを酌むなんて考えたこともなかった。」

老人は ‘ニコリ’ っと微笑みました。

「そうか! よく認めたな。 認めたことは改善できるぞ!」

そういって老人は、‘あっはっはっ’ っと大きな声で笑いました。

「よし! これはわしからのプレゼントじゃ! 受け取れ!」

そういって老人はカメの中に男を突き飛ばしました。

「うわぁ~!!」

気がつくと男は川の浅瀬で寝転んでいました。

「あれ? ここは? あっ!そうか。 俺は岩の上で釣りをし
てたんだった。 なんか変な夢を見たなぁ~。」

そういって男は立ち上がりました。

「あぁ~水が気持ちいいな。 こういうのもありだな!」

そういって男は ‘あっはっは’ と大きな声で笑いました。

「よしっ! 今日はなんか気分が良いから山を下りて町に行ってみよう。 なんか楽しい事があるかもしれないからな!」

そういって男は歩き始めました。




おしまい

  


Posted by みっちゃん at 18:39Comments(0)日記